少し情報過多になった時、疲れてしまった時、自死した母や、絶縁した兄、毒の沼から逃げ出した父のことを、思い出すことがあります。
そして、切なくなったりすることがあります。
毒の沼から抜け出し、解毒も浄化も大方終わった今でも、日々過ごす中で、古傷がうずくことがあります。
昔のように、苦しい思考、不安からくる思考に振り回されてしまうことはなくても、気持ちが沈むことがあります。
そんな時私は、「ああ、疲れたんだな」と自覚し、自分の為に静かな時間を過ごすようにしています。
音楽を聴いたり、人に一切かかわらない時間を取ります。
そして、お気に入りの本棚から1冊本を手に取り、その世界の中に浸ります。
先日、気持ちの沈んでいくのを感じて手に取ったものが「日日是好日」でした。
ゆっくりと読み進め、読書をする中で癒されて行く実感がありましたので、ご紹介したいと思います。
日日是好日(にちにちこれこうじつ/~これこうにち)、というタイトルの本。映画にもなりましたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
何度も読んでいるのに、色々な気づきがあったことや、共依存や毒親、鬱、に苦しむ方にもお伝えしたい素敵な言葉が沢山綴られていたので、備忘録兼ねてご紹介したいと思います。
こんな方におすすめ
穏やかな1冊ですが、癒しにもなる小説です。お勧めしたいのは
- 季節の移ろいを感じたい人
- 大切な人を(失恋や死別で)失った人
- 優しい言葉が紡がれている本を読みたい人
- 茶道に興味がある人
- 自分を見失いそうな人
- 毎日が辛い人
- 頑張りすぎて疲れてしまった人
- 自分の気持ちに寄り添うのが苦手な人
- 自分の人生に悩んでいる人
といった方です。
「日日是好日」は、主人公(女性)の目線で物語が展開していきます。
主人公を通して、自分自身の気持に寄り添う、寄り添い方のヒントになる1冊でもあると思います。
素敵な言葉たち(ネタバレなし)
物語の終盤に登場する、主人公の気づきの言葉を二つご紹介します。
活動的な夏もいいけど
内にこもる季節もいいの。
どっちが良くて、どっちが悪い、
じゃなくて、
どっちもそれぞれがいいのよね引用:日日是好日:第十二章
してはいけないことなど、
何もない。
しなければないことなど、
何もない。
足りないものなど、
何もない。私はただ
いるということだけで
百パーセントを満たしていた。引用:日日是好日:第十三章
ネタバレにならない範囲で、少しだけ背景をご紹介します。
この小説の中で、主人公(女性)は、「自分なんて」と思うシーンが多く登場します。
そんな主人公が、茶道を通して、「ああ、このままでいいんだ」と感じ入るシーンにあった言葉です。
この言葉はいずれも終盤に登場します。最初から主人公に伴走しながら読み進めてきて、そしてこの主人公が「ああ。そうなんだ」と気づくこの場面に、私は今回も救われました。
おおまかなあらすじと感想
20歳の頃、主人公は、母のすすめで従妹と一緒に「お茶」の稽古に通うようになります。
就職、恋愛、結婚、家族の死。
人生の転機の時に、いつもそこには一服のお茶がある。
季節の移ろいと、あたたかな関わりをしてくれるお茶の先生との関係。
一人の女性の人生を通じて、「あるがままでいいのだ」ということを優しく語り掛けてくれるような1冊。です。
全体を通じての感想
主人公が、普通の女性であることに共感を覚えます。
お茶の御稽古を中心に物語は進んでいきますが、彼女の人生の転換期毎にやってくる悩みや苛立ち、悲しみ、後悔。
共に歩みながら、そのたびに立ち止まり、気づきがあり、救われていく様子に読み進めるほどに癒されて行きました。
登場する季節の和菓子や、可憐な茶花、茶道具にときめき、季節や天候によって異なるその空間にある五感で感じる描写にも、癒されます。
素敵な言葉が沢山あふれている、大好きな1冊です。
改めて、素敵な言葉たち(ネタバレ少しあり)
先ほどと重複しますが、それぞれについてもう少し感想を。
良いか悪いではなくて、どちらも良い、と言うこと
活動的な夏もいいけど
内にこもる季節もいいの。
どっちが良くて、どっちが悪い、
じゃなくて、
どっちもそれぞれがいいのよね引用:日日是好日:第十二章
この言葉は、作中に登場する「魚住さん」という女性が語る一コマです。
魚住さんは、毎年、11月ごろになると口数が減ってくるということに気づいた主人公。
「日が短くなってくると、いつもこうなの…」と魚住さんは語り、主人公も「自分もそうだ…」と気づく。その流れから、上記ご紹介の言葉が続きました。
日本には、一年を通じて四季がある。
春はあたたかく夏は暑い。秋に涼しくなり冬は寒い。
春から夏に向けて気持ちが開放的になり、冬に向けて内省的になっていく。
開放的がいいとか、内省的的が悪いとか、そうではなくて、ということが書かれています。
ゆっくりと読みながら、「ああ、そうだよな…」としみじみ染みていった場面でした。
私を含め、all or nothingになりがちなのが苦しい時の思考の特徴ではないでしょうか?
だから苦しい。
〇〇が良い。
〇〇でなくてはいけない。
〇〇であるべき。
それは、そんなことはないのだ、とわかっていても、忙しかったり、辛い出来事が重なったりするとつい、all or nothingになる。「白黒つけたがる」思考になる。
でも、そんなことない。とこの本でも言っています。
そして、それが、物語を通して、自分の中にすっと入ってくる、理解が深まる、そんな作品です。
いけないことは何もない、ということ
してはいけないことなど、
何もない。
しなければないことなど、
何もない。
足りないものなど、
何もない。私はただ
いるということだけで
百パーセントを満たしていた。引用:日日是好日:第十三章
ただ、そのままでいい。わたしのままでいいんだ。
そう、主人公が気づくシーンです。
これは少し共感するのには難しいかもしれませんが、それでも、この言葉は素敵だと私は思います。
まとめ
苦しい時、つらい時、私は本を読むことが多いです。
お気に入りの本は手放さずに手元に置いているので、何年かに1度、読み返す機会があります。
日日是好日も、そんなお気に入りの中の1冊です。
久しぶりに読みながら、主人公の「父の死」のシーンや、「失恋」のシーンがあったことをすっかり忘れていました。
そして、その2つのシーンで、人間関係で苦しい時や後悔が残る人との別れについて、想いを巡らせました。
同じく、主人公の作中で思い悩み、後悔し、嘆く。そして、その中からどうにかして立ち直る。そんなシーンが描かれています。
主人公を通して、自分の過去の悲しみや後悔に少し触れ、傷跡をなぞり、癒す。
同時に、小説の中に描かれている美しい折々の場面の描写に癒される。そんな1冊です。
つらい時、苦しい時、なんだかわからないけれど気持ちが疲れている時に、お勧めの1冊です。
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